2012年5月2日水曜日

男は男として生まれるわけではない。男になるのだ。:SRY遺伝子

昨日授業で、男はもともとは女の子だった、と切り出すと、一同シーンとする。

しかしこれは真実。

高校で習うように哺乳類では

オス X/Y
メス X/X

なる「性染色体」を持っている。

そして、高校でY染色体をもっているとオスになると習う。でもその理由は教えてくれない。

考えてみれば、Y染色体上にオスをオス足らしめる遺伝子があるんじゃね、と気付く。

そのように、研究者は古くからその存在に気付いていたが、この原因遺伝子はなかなか見つからなかった。見つかったのは最近のこと。

(http://www.biological-j.net/blog/2008/02/000396.htmlより転載)

末席にいるのがY染色体。そのお隣のX染色体に比べれば、なんとはかない存在か。

これはたとえではなく、男は染色体的には脆弱なのだ。


Y染色体は太古(哺乳類が誕生した恐竜のいた時代)、X染色体と同型であったと考えられている。その痕跡として、X染色体とY染色体には似た配列が現在でも残っている。

しかし、男性化を決める遺伝子がY染色体に取り憑いたため(これは比喩でもなんでもなく、性を決める遺伝子はいわばババ札。)、その疫病神のおかげで、零落の一途を辿ったきた(今後も辿る)と考えられている。

その原因(事情)には2つある。

一つ目の事情とは、

Y染色体はいつも細胞内でひとりぼっち、だからと言うもの。

その他の染色体(性染色体以外のいわゆる「常染色体」)をみれば、全て2本ずつセット(「相同染色体」とよぶ)になっている。

X染色体も男性の体にある時は一つきりだが、女性の体にある時は2本揃う。

染色体は、紫外線や活性酸素(酸化力の強い酸素化合物、例えば過酸化水素H2O2のような)により、常に傷つけられている。記憶を頼りに書くと、細胞中で一日10万ヶ所も染色体上のDNAはダメージを受けているという。

そのほとんどはありがたいことにすばやく修復されるわけだが、その修復に、2本ずつセットになっているところの相同染色体が利用される。

相同染色体の片方が傷ついたら、無傷の方のもう一つの染色体の遺伝情報(DNA配列)を元にして修復する。

つまり、その意味で染色体は2本揃っていて遺伝子情報がうまく保たれるようになっている。

相同染色体を持たないY染色体は、そのためダメージを蓄積しやすいのだ。

これが、Y染色体が矮小化したしくみ(近接的要因)と考えられているもの。


二つめの事情は、

Y染色体は、細胞にとって扱いにくい邪魔な存在だということ。

染色体上の遺伝子から遺伝情報が読み取られて、タンパク質がつくられるのだが、男と女で染色体の数が違っていると、作られてくるタンパク質の量に関して、両者にばらつきができて細胞としてはまことに都合が悪い。

といっても、通常の常染色体は男女とも二本ずつあり、その心配はない。

困ってしまうのは、性染色体の場合。

男には、女にはないYがある。

つまり、Y染色体から遺伝子がガンガン読み取られて、タンパク質がつくられたら、それは男にはあって、女にはないもの、ということになりかねない。

そのため、細胞にとってはY染色体は却ってない方がいいくらいの鬼子なのだ。
(女性の場合、X染色体が男性の二倍あるのも大問題で、これに関しては巧妙なからくりによりその困難を女性は回避している。この話題はいずれまた)

ただし、精子をつくる際の「減数分裂」時にはX染色体との対合に必要となるため、形ばかりのお飾り状態としてあればいい、的なものと言える。

なのでY染色体の矮小化は、細胞にとって頭を抱える大問題、の真逆で、願ったり叶ったり、という裏事情がある(いわゆる「遠隔的要因」)。


Y染色体唯一の存在意義は、男性化するためのスイッチを入れるとされる遺伝子「SRY」を載せていることだ。

SRY: http://ja.wikipedia.org/wiki/SRY


つまり、Y染色体にはSRYさえあればいい、他は却ってあったらジャマ!、くらいに細胞は思っている節がある。

SRYが太古Y染色体に憑依したために、ああかなしやな、Yはその疫病神遺伝子によって風前の灯火状態となりはてにけり。


さてやっとのことで、題名の話題にたどり着いたが (^ ^;

その唯一重要なSRY遺伝子だが、男性の場合、まだお母さんのお腹にいる間にこのスイッチがONになり、男性ホルモンをみずからガンガンつくりオスになるのだ。

というと、

「先生、では、男の子はオス化する前はどうなっていたんですか?」

という生徒からの質問がここで欲しいところ。

こういう、授業の流れを読んだ当意即妙な質問を生徒がしてくれると教師稼業も楽なのだが(笑)


受精卵が胚発生を始めて数週間後からSRY遺伝子が働き出すのだが、それ以前は男の子は女の子だったのだ。

人を含めた哺乳類は、胎児はメスとしてまず発達する。そのまま、SRYによるオス化のスイッチが入らなければ、メスとして生まれる。これが人でいう女の子だ。

要するに、哺乳類の胎児の初期設定(デフォルトの状態)はメスなのである。


ではなぜ、このシステムが哺乳類で採用されたか?

その逆のシステム、オスがデフォでメス化する遺伝子をもったものがメスになる、というシステムを採用していても良かったのでは?

実は、メスデフォシステムには必然性があると考えられている。

哺乳類では胎児は常に母胎から女性ホルモンの攻撃に曝されている。臍の緒から血流にのって栄養分とともに女性ホルモンもやってくる。

もし、オスがデフォで胎児に女性ホルモンがあるとメスになるということになっていたら、全ての胎児は母親の女性ホルモンにより全員メス化してしまうことになりかねない。

もう一つ理由があるとすれば、

オスは付属物にすぎないからということ。

メスだけで子供をつくる動物、生物は多くいる。
つまり、生物がその気になれば作れるのだ(そのシステムを持とうとすれば持てる)。

オスはなくてもいい(あった方がよいのは確か)。
つまり、生物はメスが基本型で、オスはメスを改変してつくられたオプション的なものと捉えても良い。

というように、Y染色体が情けなければ男も情けない、そんな状態なのだ。
という、自虐的国家史観のようなことになってきた。


しかし、それを弁えた上で、男性諸君、敢えて言おうではないか!

男は男として生まれるわけではない。男になるのだ!


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